たばこを吸って肺がんの治療
喀痰細胞診検査やCT検査を受け、仮に肺がんが早期の状態で発見されてレーザー治療や手術ができたとしても、たばこを吸っている人はと喜んでばかりもいられません。
ヘビースモーカーの人は通常、がんとは別に、全身の健康状態が低下しているもので、たとえば、ニコチンが原因で血管が詰まりやすくなっていたり、心臓の状態もよくなかったりします。
呼吸機能が低下していると、全身麻酔をかけられなくて手術ができないということもあります。
悪い条件のもとで手術や治療を受けなくてはならないので、手術のあとに容態が急変することもありがちです。
手術を受けると体力が消耗するため、COPDの症状が現れていなかった人でも急に呼吸が苦しくなったり、咳が止まらなくなったりもします。
それまでは、たばこによって肺の機能が落ちていたのを、ほかの部分の筋力などを使ってなんとかカバーしてきたのに、それが衰えることでカバーしきれなくなってしまうのです。
そのせいで、手術後の立ち上がりが悪いということも多いのです。
また、手術で肺をいじったせいで、濃い痰がたくさん出るようになる人もいます。
痰が切れないから咳をすると肺が痛むわけで、それがつらくて咳をしないでいると痰が出ないから詰まってきて、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。
非常に感染にも弱くなっているのでなおさらです。
このようにたいへんリスクがあるので、今はほとんどの病院でたばこを吸っている人の手術はしません。
患者さんがヘビースモーカーである場合は、少なくとも一カ月以上は禁煙してもらって、それまで手術を延期することもあります。
とくに肺がんの手術に関しては、医師は合併症を心配して、十分に禁煙期間を設けるのが一般的です。
よほどのことがない限り、がんが一カ月でそれほど進行するケースは少ないのですが、それでもがんを宣告されている身にとってはつらいはずです。
一刻も早く手術してほしいと願っているところを、一カ月も放っておかれるというのはたいへんなストレスになりますが、合併症を考えると譲れないのです。
ちなみに、たばこを吸っている間は手術ができないというのは、胃がんや子宮がんなど肺がん以外の病気でも期間には差があっても同じです。
肺がんの手術を受けたのがきっかけで、それまで自覚していなかった息苦しさや咳、痰などのCOPDの症状が突然表面化したという方もよくいらっしやいます。
COPDを併発している肺がんの場合は、放射線治療がやりにくいというデメリットがあります。
もともとCOPDによって肺の二〇%から、ひどい場合には五〇%がすでに機能していないような状態の場合、患部に放射線を当てると、放射線がさらに肺の機能を失わせることになるため、放射線治療ができない場合もあります。
また、COPDを併発していると、抗がん剤の副作用のひとつである間質性肺炎がたいへんに高い確率で起きる可能性があります。
肺がんには非常に効果が高く、抗がん剤の切り札といわれている分子標的治療薬の「イレッサ」は、この副作用としての間質性肺炎がほかの抗がん剤よりも非常に高い確率でおこってしまうのです。
したがって、まったくたばこを吸っていない患者さんには比較的安心してこの薬を投与できますが、ヘビースモーカーの患者さんへの投与はかなり難しいとされます。
イレッサはまた四つの条件があって、「東洋人」「ノンスモーカー」「女性」「末梢型肺がん」がすべて満たされていると効きやすいのです。
日本人女性の場合は、少なくともそのうちの二つは必ず満たされているわけですが、これがたばこを吸っているばかりに効かなくなるのです。
いずれにしても、たばこを吸っていたり、COPDを併発していたりすると、肺がんになった場合の治療選択肢は制限されてしまうというのは間違いありません。
COPDにしろ、肺がんにしろ、患者数は増えているのにもかかわらず、これまではあまり注目されることもなく、三〇代、四〇代の人は、たとえたばこを吸っていたとしてもほとんど当事者意識をもってこなかったのです。
しかし、肺は年をとって突然ダメージを受けるものではなく、若いうちからずっとダメージを蓄積させながらじっと耐えているのです。
取り返しがつかないことになる前に、自分の肺を思いやって、少しでもダメージを軽減するよう心がけることが大切です。
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