脳の慢性炎症は心理ストレスから
急性炎症の場合、戦いと修復のプロセスを終了すると、からだ防衛軍の仕事はすみやかに停止します。
ところが、はじまりがはっきりとしていなくて、きちんと停止することもなく、ごく低いレベルで続いてしまうだらしない炎症があるのです。
これが、慢性炎症で、ほとんどの場合、痛みなどを感じることがなく、外から見てわかるような症状もあまりありません。
専門家が顕微鏡で体の組織をていねいに見たり、特殊な血液検査を行ったりしていくと、かすかな炎症反応が確認されます。
とくに、脳で起こるものはミクロの慢性炎症とよばれ、かなり精細な検査を行っても発見しにくいといわれています。
そのぐらい微弱なものだとしても、炎症がジリジリダラダラと続けば脳や体は確実に疲弊し、蝕まれます。
慢性炎症の蓄積は心身にさまぎまなダメージをもたらすのです。
脳の慢性炎症は、心理ストレスがあるときに起こりやすいことがわかっています。
大勢の人の前で話をしたり、暗算をしたりという実験をしてみると、健康な人でも血液中に炎症反応が見られます。
そういうときは、だれでも緊張感やプレッシャーが高まります。
心理ストレスは脳の視床下部を刺激し、炎症伝令物質を活発化させて、炎症を発生させます。
すると、脳は2つの方法でそれを抑えようとします。
ひとつは、ストレスホルモン″を分泌する方法で、ストレスホルモンは強いストレスがあるときに出るホルモンで、その働きのひとつが、「炎症を停止せよ」という脳からの命令を運ぶことです。
もうひとつは、自律神経のなかの迷走神経を使う方法で、迷走神経とは主に副交感神経からなるもので、心身のリラックス状態をつくる働きのほかに、炎症を抑える作用ももっているのです。
このうち、炎症の抑制効果が出るのが早いのはストレスホルモンなのですが、炎症が続いているときは、このストレスホルモンも、長い間、出続けます。
すると、だんだん体の感度が鈍くなり、効果も落ちてきてしまいます。
一方、速効性はないものの、炎症抑制に持続的に働くのが迷走神経ですので、慢性炎症が長引き、ストレスホルモンの効きが悪くなっているときほど、この迷走神経の役割の重要性が増します。
心理ストレスによって脳の炎症が発生したときは、短距離走の得意なストレスホルモンと、長距離走の得意な迷走神経が、その炎症を抑えようとそれぞれにがんばっているような状態なのです。
ところが、炎症の力のほうが強く、両者の力をもってしても抑制することができないことがしばしばあると、炎症はそのあとも、ジリジリダラダラとした慢性炎症として続いてしまうことになるわけです。
このメカニズムからも、一過性のストレスより、慢性的なストレスがあるときほど、慢性炎症が起こりやすいのです。
さらに、最近の研究からは、脳の慢性炎症に結びつきやすい心理ストレスがあることもわかってきました。
それは、とくに、対人関係にまつわる葛藤や孤立です。
「仕事上の人間関係がギクシャクしている」、「上司や同僚からの十分なサポートがないなかでのオーバーワークが続いている」、「夫婦仲がうまくいっていない」、「嫁姑問題にわずらわされている」、「一人で介護を抱え、苦労している」、「大切な人を失って、その悲しみから抜けられない」といったものは、うつの要因になりやすいストレスとして知られています。
その間題がなかなか解決できず、慢性的なストレスになっているときほど、脳の慢性炎症が起こるリスクも高くなると考えられるわけです。
また、異なるタイプの慢性ストレスとしては、子ども時代の経験もあげられ、子ども時代に大きな対人ストレスを抱えていた人は、そうでない人より強い慢性炎症が見られやすいと報告されているのです。
幼いころに暴力や性的虐待を受けた人などが、将来、うつを発症するリスクが高いということは以前からわかっていたのですが、炎症反応という視点でも、それと同様のことがうかがえるのです。
うつ病がんばるな!
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