歩行者の飛び出しで対向車に衝突した場合

歩行者の飛び出しで対向車に衝突した場合

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歩行者の飛び出しで対向車に衝突した場合

運転者が第三者を助けるために、結果的に交通事故をひき起こすことがあります。

刑法上緊急避難にあたる場合は処罰されないことになっています。

刑法の条文に、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」(三七条)という規程があります。

これがいわゆる緊急避難といわれるものに関する規定で、通常の場合ならばなんらかの犯罪行為として処罰に催する行為であっても、その行為の行われた状況等を判断して、危難が切迫していて、他にこれを避ける方法がない場合に、やむをえずその行為を行ったとみられる場合には、これを処罰しないことにしようというものです。

つまり、ある行為について、法的な責任を問おうとするためには、その前提として法の立場から、その行為をしないことが行為者に期待できる場合でなければならない。

行為者が違法行為と適法行為についてそのどちらかを選択する自由を有していたのにもかかわらず、あえて違法な行為を選んだ場合にだけ、行為者に法的な責任を問うことができるのだということです。

適法な行為に出ることを期待できないような状態にある者に対して、違法な行為をしたと同じ責任を追及するのはあまりにも酷であり、法はそのような非情なものではありません。

このような考えのうえに「緊急避難」の例として、次のような例が教科書にのっております。

船が難破しておぼれそうになった二人の人が、一枚の板にしがみつこうとする場合のことで、この場合、二人でその板につかまればその板とともに沈んでしまうが、一人でならやっと浮いていられるような状態のなかで助かろうとして、後からこれにつかまろうとした人を突き落として溺死させて自分だけが助かったとしても、それは緊急避難行為として犯罪にはならないというものです。



そこで、交通事故の場合ですが、運転者が、いきなり道路に飛び出した人の身体生命の安全を守ろうとして、対向車にぶつかることもやむなしとしてハンドルを切った場合には、当然対向車に衝突したからといって、その責任を負わされることはないということになります。

ただし、これは法がその状況からみて、やむをえない行為であったとしてはじめて許されるのですから、そのためには、ハンドルを村向車の方向に切ったことが、その状況下で真にやむをえないものであったかどうか、もっと早くから飛び出しを発見できなかったか、警音器を鳴らして自車の接近を知らせていたかどうか、他の方法はとれなかったか否かなどの点がすべてみたされており、真にやむをえなかったといえる場合にはじめて認められることです。

したがって、実務上これを認めた事例は少ないようです。

ところで、この事例で車を運転していた者がふつうの速度で走っていたなら、人が飛び出してもブレーキを踏むことによって十分に間に合っていたはずなのに、制限時速をはるかに超えるスピードで走っていたため、ブレーキ操作では間に合わず、そのためにハンドルを右に切って対向車に衝突させてしまった場合はどうなるのでしょうか。

この場合は、前の例とは違って、いわゆる 「自招危難」と呼ばれ、緊急状態に陥ったことに対し、行為者自身に責任がある場合です。

大審院時代の判例のなかに、これと似た事例があります。

これは徐行義務違反の運転者が、一人の少年をひくのを避けようとして、その少年の祖母に自動車を衝突させ死亡させた事件です。

判決では「その危難は行為者がその有責行為によりみずから招きたるものにして、社会の通念に照らしやむを得ざるものとして、その避難行為を是認する能わざる」場合であると述べています(大正一三年一二月一二日)。

つまり、自分でまいた種は自分で刈り取れということです。

しかし、すべての場合にこういい切れるか、はなはだ疑問です。

その状況下で、真にやむをえなかったといえる場合にはじめて認められるので、実務上、これを認めた手例は少ないようです。

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