制動可能距離は刑事責任に影響を与える
交通事故の発生を防止するためには、自動車の制動可能距離を知っていなければなりません。
運転者が危険を発見し制動停止を必要と判断し、ブレーキ等の操作により自動車が完全に停止するまでの間に自動車が走る距離を制動可能距離といいます。
この距離は、@空走距離、A伝導距離、B滑走距離の三つに分けられます。
@空走距離
運転者が目と耳とで事象を判断し、実際に制動操作をとるに至るまでに車両が進行する距離のことです。
空走距離は運動神経や運転経歴によって個人差はありますが、平均的には〇・四秒ないし〇・八秒ぐらいであるといわれています。
したがって平均時速四〇キロで計算しますと四・四メートルないし八・八メートルを走ることになり、目から頭を経て足に命令が伝わるまでにこれだけ走るといえます。
A伝導距離
いわゆる踏み込み時間中の走行距離をいいます。運転者がブレーキを踏み、制動作業を開始し、車輪の回転が停止するまでの距離、をいうわけです。自動車の種別、年式、ブレーキの種別、整備状況、アクセルペダルからブレーキペダルの状況、ペダルの踏み方と力などの条件によって、やはり個人差はありますが、平均的には〇・一秒ないし〇・三秒であるといわれています。
したがって、時速四〇キロで考えますと、一・一メートルないし三・三メートルくらいを走行することになります。
B滑走距離
ブレーキの作動により停止した後に、慣走によって進行し車輪と路面の摩擦によって車体の進行が完全に停止するまでの距離をいいます。
いわゆるスリップ痕を路面上に残す距離です。
自動車の車輪の種別、タイヤの種別、古さ、積載の重量、路面の種別(アスファルト・砂利・赤土など)、天候などによって、同様に滑走距離はおのおの異なります。
実務では細かい計算方法をとらず、ごく大まかに計算しております。
現在考えられている最も簡易な算出方法で、制動距離を算出するのに速度の二乗を一〇〇で割る方法です。
たとえば、時速四〇キロとすると一六メートル、時速五〇キロですと二五メートルという数字がでてきます。
これを数式で示すと、
S=V2÷100、S=制動距離m、V=時速km/h
となります。
次にやや複雑な計算式を示すと、
S=0.139V2/M、S=制動距離(m)、V=時速(km/h)、M=制動度(km/h/s)、M=二輪制動・・・21.4km/h、四輪制動・・・14.2km/h
なお、実際は、右よりもやや短い距離で制動が可能のようです。
滑走距離・速度・摩擦係数のうちいずれか二つが判明したとき、他の一つの数値が求められます。
なお、捜査段階や公判では、警察科学研究所の技官や、大学の研究室に依頼して専門的に鑑定することもあります。
自動車工学の進歩とともに、この点での研究も進展しつつあります。
走行中の自動車の制動関係はこのとおりですが、路面の状況によってもだいぶ変わります。
とくに乾いた路面では十分な摩擦力がありますが、雨天時には路面とタイヤの間を水がさえぎり、潤滑油のような作用を起こして摩擦力を低下させます。
摩擦力の低下状況についての研究によりますと、雨の降りはじめにはとくに摩擦力が弱くなるようです。
これは、道路に付着している泥・ほこり・抽などが雨水によって粘度の高い液体となり、これが摩擦力を減少させる原因となっているからです。
時速四〇キロメートルで走行中の車が、十分な制動能力がある場合の実験では、乾いた路面で八メートルで停止するのに雨の降りはじめでは一六メートル、雨で洗われた路面では一一メートルという数字が出ています。
したがって、雨天時における前方注視義務や速度については、乾燥時の運転に比して注意義務が高いものになります。
次にタイヤの摩耗の場合の危険性が問題となります。
車の速度が速くなるとタイヤの回転数が増加し、タイヤの接地部分が路面に接触している時間が短くなります。
その結果タイヤと路面との接触による摩擦係数は、タイヤの摩耗度、残溝の深浅さによって異なってきます。とくに八〇%程度の摩耗(残溝が二ないし三ミリ)になると急激に摩擦度は低下するといわれております。
実験例によると、雨天時新品タイヤで三〇%の速度減をしなければならないときには、摩耗タイヤの場合は五〇%以上の速度減を必要とされています。
そこで、古いタイヤは早めに交換することが必要ですし、運転速度についてはセーブするよう注意しなければならなくなります。
特異な事例としてハイドロプレーニング現象と呼ばれる場合があります。
路面に二ないし三ミリメートル以上の水がたまり、そこに、車がはいると、大きな抵抗を感じ、片輪だけを突っこんだ時にはハンドルをとられることがあります。
水の中で速度をあげていくと水の抵抗が急増し、ついにはタイヤが水の上に浮き上がってしまいます。
モーターボートが船体を浮き上がらせて走るのに似ています。
これをハイドロプレーニング現象と呼んで、東名高速度道路上における事故原因の解明を契機として注目されています。
この現象が起こると、ブレーキがきかなくなり、牽引力がなくなり、ハンドルを切ってもカーブができにくく、方向不安定状況に陥り、わずかな横風にもゆれるという危険状態になります。
そのため、深き水たまりではスピードを落とすこと、摩耗タイヤによる高速走行は避けること、タイヤの空気圧に注意するなどの運転者としての注意義務が要求されることになります。
制動可能距離は、危険回避の可能性の有無を判断するうえで重要な働きをします。
加害自動車に危険回避の可能性がなければ、不可抗力ないし、被害者側の過失を主張できます。
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