交差点内で左折車が起こした事故の責任
@後続する直進車との衝突事故
交差点を左折する場合は、右折車同様に交差点の手前の側端から三〇メートル手前の地点に達したとき左折の合図をし(五三条)、車両をできる限り道路の左側に寄せて徐行しなければならないし(三四条一項)、その際交通整理が行われていれば信号にしたがわなければなりません。
しかし、左折にあたっては、それまでの直進道路を左方に変更することから、自己の左側に併進している他の車両や左後方から接近してくる他の車両の有無を確認しないで、突然左折をすると併進車・後続車との衝突の多発性が考えられます。
そこで、左折をするときは合図の後、適当な時間的・場所的間隔をおいて併進あるいは後続の車両の有無を確かめ、それらの車両があるときはこれらを先に通過させてから左折すべき注意義務があるといえます。
したがって、その義務を怠ったため、安全確認をしていたならば当然発見できたのに、併進もしくは後続の車両を発見することができず、接触事故を起こしたときは、左折車に過失ありということになります。
もっとも、左折の合図後次第に車を左に寄せて徐行し、後方を確認した時点では併進・後続の車両を発見することができなかったが、左折にはいったところ左折車の動静に留意もせず意外の速度で後方から進行して来た車両と接触した場合には、左折車には過失がなく後続車両にのみ過失があるということになります。
たとえば、普通貨物自動車が左折する場合、左折の合図は法規どおりしたものの、左折進入する道路が狭くかつ鋭角をなしていたため、道路の左側に寄ることが困難であったので、道路左側との間に約二メートルの間隔をおいて他の車両の進入しうる余地を残して左折したため、後方から左折車の左側を追い抜いて直進しようとした自動二輪車が接触し、自動二輪車の運転者が死亡した事件について、最高裁昭和四五年三月三一日判決は、「本件のように技術的に道路左側に寄って進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路中間にはいりこむおそれがある場合にも、法規どおりの左折の合図をなし、かつできる限り道路の左側に寄って徐行し、さらにバックミラーを見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、窓から首を出すなどして左後方のいわゆる死角にあたる場所の動静などにまで、注意する義務はない」といっております。
同様に信頼の原則を適用したものに最高裁昭和四六年六月二五日の判決もあります。
ただし、注意しなければならないことは、最高裁判所はすべての左折死角事故について左折車両の運転者の注意義務を免除したのではないということです。
この二つの判決では、いずれも左折車両の運転者は、交差点の手前三〇メートルから左折の合図をして適切な準備態勢にはいっており、後方にいた被害車両はこれを視認できたか、左折車両の運転者が後写鏡で後続車両の有無を確認している事案です。
つまり、左折運転者としては、まず第一に道路交通法所定の左折の合図をしていなければなりませんし、さらにその際、自車に優先して自車の左側を追い抜くことが認められる後続車両(三四条六項参照)のないことを確認しておかなければなりません (最高裁昭和四九年四月六日決定)。
また、最近の左折死角事故として、交差点の手前一〇メートルにある鉄道の踏切で約一〇秒から一五秒間いったん停止した後、初めて左折の合図をして発進し、その時併進していて運転席からの死角にはいっていた自転車と左折の際接触した事案について、東京高裁昭和五六年五月一三日判決は、このような場合、左折車両運転者としては、「交差点の三〇メートル手前から左折の合図をするとともに、一時停止中からつとめて、おそくとも発進直前には、後写鏡により左側歩道上を後方から進行してくる自転車等の有無・動静を注視し、それらが自車の死角内にはいる前にこれを把握したうえ、これとの関係で進路の安全を確保しながら進行し、もって接触・衝突等を未然に防止すべき業務上の注意義務がある」としています。
A左折進路上の横断歩行者との接触事故
信号機により交通整理が行われている交差点での左折車は、黄色信号にしたがって交差点内に進入左折した場合に、横断歩道を横断中の歩行者と接触する事故の発生がきわめて多いとされています。
そこで、運転者としては左折にあたり、横断歩行者の有無・動静に注意を払うべきことは当然のことですし、歩行者の行動には十分に留意し、減速徐行をしていつでも停止できるよう進行する注意義務があります。
さらに、下級審の判例ですが、一歩すすめて、徐行するだけでは足らず、一時停止すべき義務まで認めたものがあります。
事案は、大型貨物の運転者が交差点を時速約一〇キロメートルで左折進行していて、交差点出口の横断歩道上で、左から右へ横断中の自転車と接触してしまった、というものです。本件の場合、横断歩道左端は一時的に運転者の死角に入ってしまったのですが、裁判所は、「横断歩道左端の歩道の上を本件横断歩道方向に進行する歩行者や自転車があるかどうかを視認できる地点を通過する際、横断歩道左端およびこれに接する歩道上に歩行者や自転車等が存在するか否かに留意すべきであるが、その存在を視認し得ない場合にも、その後に自車の死角内で歩行者や自転車等が横断する可能性があることならびに横断歩道入口手前で横断歩道左端が死角の外に出、フロントガラスおよび運転席左側窓、アンダーミラーおよび左アンダーミラーを通して横断歩道全体の見える地点に至って横断者を発見し制動しても、空走距離の関係で横断歩道手前では停止できないことがあることに思いをいたし、左側死角を消除し得る手段のある場合は格別然らざる場合、(中略)横断歩道全体が見える地点で一時停止(後略)」しなければならないと判断しています(東京高裁昭和五七年八月二五日判決)。
これらのことを怠って事故を起こした場合には、注意義務違反として処罰の対象となります。
なお、横断歩道上の通行人の生命身体の安全は、十分に保護されなければなりませんので、歩道上で事故を起こした運転者の処分は、おおむね実刑の判決を受けております。
より慎重な運転態度が望まれます。
また、左折すべく赤色信号にしたがい停止中、やはり信号待ちの自転車を認めたが、青色信号に変わったので発進したところ、その自転車も左折進行したので、そのまま左折後直進するものと考え、自車を左折進行させたが、自転車が左折後、右折して横断歩道上を青色信号にしたがって横断したため、これと衝突したという事案があります。
横断者は自転車から降りて押して歩いて渡っていないので、横断歩行者としての優先権(三八条一項)はないのですが、東京高裁昭和五六年六月一〇日判決は、自転車に乗ったまま横断歩道を渡ることは日常しばしば行われており、しかも自転車を降りて押して横断する場合とくらべて横断者の発見という点では違いがないことなどから、「自転車が交差点の左側端に添い、その出口に設けられた横断歩道附近まで進行したからといって、そのまま左折進行を続けて進んでいくものと軽信することなく、横断歩道を信号にしたがい、左から右に横断に転ずる場合のあることも予測して、その動静を注視するとともに、自車の死角の関係からその姿を視認できなくなった場合には、横断歩道の直前で徐行または一時停止して自転車の安全を確認すべき注意義務ある」としています。
この事件では、運転者は禁錮一〇か月に処せられています。
運転者はこの判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、ここでも上告棄却となり、最高裁判所もこの高裁判決を支持しました。
まず、交差点の手前の側端から三〇メートル手前の地点に達したとき右左折の合図をし、徐行するなど法規にしたがった右左折方法をとらなければなりません。
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