交通事故と刑事、民事、行政上の責任

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交通事故と刑事、民事、行政上の責任

交通事故を起こしたとき、運転手としてどのような責任を負うのか考えてみます。

責任は、まず道義的責任と法律的な責任とに大別されます。

道義的責任というのは、個人個人の良心に関係する責任で、社会人としての良心、道徳、信仰などによって規制されるものです。

法律的責任とは、法律によって規制され、国家の力によって強制される義務をいいます。

道義的責任の場合は、責任を果たさなくとも、みずからの良心から批判されたり、社会から非難されるにとどまり、強制されることはありません。

ところが、法律的責任の場合は、個人の自由やわがままを許さずに、その責任を果たさないものに対しては国家の力で執行され、履行させられることになっています。

この法律的責任を、交通事故の場合に限って分類しますと、刑事責任、民事責任、行政責任の三つに分けられます。

刑事責任とは、法律に違反して社会の秩序を乱した者に村して、刑罰を科する根拠となる責任をいいます。

違法な行為をした者に対する応報とか、再犯の防止を目的とし、国家と個人とを規律する縦の関係にあるものです。

たとえば、道路交通法に定める各規定に違反して、酒酔い運転したとか、スピード違反したような場合、あるいは刑法に定めてある業務上過失傷害罪に該当するような不注意によって第三者に傷害を与えた場合に、国がその違反者である個人に対して、罰金刑を科したり、禁錮刑や懲役刑に処して刑務所に収容するなどの強制的処分をなす場合の責任が、刑事責任です。

民事責任は刑事責任と異なって、個人と個人の横の関係を規律するものです。

交通事故により傷を与えられたり、物をこわされたりした場合に、その損害賠償について加害者と被害者との関係をどう定めるかが民事責任です。

この場合に、加害者と被害者との話合いで問題が解決すれば、これは民事上の契約として有効になります。

また協議がととのわないときには、国家の機関の一つである裁判所において、調停、訴訟などにより解決が図られることになります。



さらに約束どおりの金銭の支払いがなかったり、怠った場合には、強制執行という国の手続きによって、加害者の土地や建物、家具などが競売になり、競落金をもって被害者の損害にあてることになります。

このように、個人間の関係を規制するものが民事責任であって、その規制に従わないときには国家の強制力が働いて、当事者間の公平な解決が図られることになります。

刑事・民事責任と性質・目的を異にするものに行政責任があります。

公安委員会の行う免許の取消し・停止などがこの処分で典型的なものです。

その他、公務員の場合、懲戒解雇とか減俸、休職等の処分がなされることになります。

さらに個人が属している団体などの組織体での内部関係を規制する責任があります。

会社員の場合の休職、減俸などの処分や、学生の退学、停学処分などがこれです。

以上のように、一回の交通事故から発生する責任であっても、国と個人の関係である刑事責任、加害者と被害者を規制する民事責任、交通の安全や組織体の安全を保持するための行政責任など各責任があるわけです。

これらの責任の関係は、原則として法律上はまったく別個のものとして考えられております。

したがって、たとえば事故により被害者を死亡させた場合に、加害者が刑務所に一年ぐらい入っていて刑事責任をつくしたとしても、被害者に対して賠償しなければならない民事責任は残ります。

また逆に、被害者に誠意をつくして賠償し、被害者が処罰を望まないような場合であっても、民事責任は果たされてはいますが、刑事責任は残りますので、刑に服さなければならないことになります。

もっとも、これらの責任はまったく別個の責任系列であるといっても、もともと一つの事故から発生したものですから、ある程度関連する場合はあります。

たとえば、被害者に誠意をつくして謝罪し、被害の賠償もほとんどすまされているような時には、刑事責任は軽くなることもあります。

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